夏の香りを運ばせた芳しい風が白いカーテンを揺らした。同じ色のベッドに横たわる少女の瞳は一向に開く様子はなかったが今にも消えてしまいそうな小さな吐息だけは確認できて、少年はほっと安堵の息をもらした。
「志乃…」
少年はまるで動かない人形のように眠る愛しい少女に話し掛けたが彼女は答えることはなかった。もう一度自分の前で名前を呼んで、笑ってくれる日はくるのだろうか。駆け巡る不安を打ち消すように少年は首を横に振った。
(だったら俺はなんのためにログインしてるんだ)
―志乃を助けるため。志乃がこうなってしまった原因を突き止めるめ。
「…絶対、助けるからな…」
―そしたら…、そしたらもう一度俺と歩いてくれるか?
少年は心中で少女に問うた。深い眠りの中から少女が瞼を動かすことはなかったが、少年は少女の柔らかい髪をそっと撫でた。手のひらから今にも零れ落ちそうな想いを少年が口にすることはなかった。それは少女の瞼が開いたときに直接伝えなければいけない、伝えたいことだから。
「悪い…そろそろ行くな…」
少年は腕時計の針を確認すると愛しそうに少女を見やった。ぱたり、と扉の閉まる音は夏風に包まれて消えていく。残された少女の隣に咲く小さな花は少女のかわりになるかのように彼を見送った。
祈りの先に
(あなたの笑顔が今一度この瞳に映るように)
.hack//G.U. ハセヲ×志乃(*リアルにて)
サイトより
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